デスクの引き出しに、なんとなく置きっぱなしにしていた万年筆。久しぶりにキャップを開けたら、すぐにインクが出て、思わず「おお」と声が出た。
プラチナの「#3776 センチュリー」は、そういう一本だ。
派手さはないけれど、毎日のメモや手紙に、いつも同じ調子で寄り添ってくれる。
乾かない安心感、軽い筆あたり、国産らしい誠実なつくり。そんな万年筆がひとつあるだけで、日々の書く時間が少し心地よくなる。
目次
プラチナ #3776 センチュリーとは
富士山の標高を名に持つ、プラチナの代表作
「#3776(サンナナナナロク)」という数字は、富士山の標高・3776メートルを意味している。
“日本一の頂きを目指す万年筆を”という想いを込めて、プラチナが生み出したシリーズだ。
創業から100年を超えるプラチナ万年筆は、パイロットやセーラーと並ぶ国産三大ブランドのひとつ。その中でも#3776 センチュリーは、“実用性を極めた金ペン”として根強い人気がある。
装飾をそぎ落としたデザインと、扱いやすいバランスの良さ。「初めての一本」に選ばれることが多いモデルだ。
乾かない秘密──スリップシール機構
#3776 センチュリーの象徴といえば、キャップ内部に仕込まれた「スリップシール機構」。
これはキャップを閉めると内側で弾力のあるパーツが気密を保ち、空気の流れを遮断してインクの乾燥を防ぐ仕組みだ。
プラチナ社の実験では、1年経ってもペン先が乾かないという。
実際、数週間放置していても、キャップを開ければすぐにインクが流れ出す。
“乾きやすい”という万年筆の弱点を解決してくれている。
手に取ると感じる「誠実な軽さ」
軸は樹脂製で見た目より軽い。しかし安っぽさはなく、キャップを後ろに挿しても重心がぶれない。
長く書いても疲れにくく、ノートや手紙など“日常の筆記”にちょうどいいバランスだ。
派手さや個性よりも、「いつも同じ状態で使えること」。#3776 センチュリーの魅力は、まさにそこにある。
実際に使って感じる印象と書き味の特徴
書き出しの安定感
#3776 センチュリーは書き出しのかすれが少ない万年筆として知られている。
数日間キャップを閉めていても乾きにくいという「スリップシール機構」の効果は、多くのユーザーから「いつでもすぐ書ける」と評価されている。
筆圧がいらない、軽いタッチ
ペン先(ニブ)は14金。硬すぎず、しなやかに紙をとらえる書き味が特徴だ。一般的なスチールペンに比べると筆圧が要らず、軽く動かすだけで線が出る。
「万年筆は力加減が難しい」と感じていた人でも、扱いやすい部類に入る。国産の中では比較的“素直なタッチ”で、個体差が少ないのも安心材料だ。
紙との相性
メーカー純正のインクは発色が落ち着いており、ノートや手帳など、普段使いの紙とも相性がよい。
- MDノートやダイアリー紙:インクのにじみが少なく、さらりとした筆記感。
- ロディアなどの滑らかな紙:ペン先がよく走り、金ペンの柔らかさを感じやすい。
- コピー用紙:線がやや広がるものの、かすれは出にくい。
どの紙でも“極端なクセがない”のが、#3776 センチュリーのよさだといえる。このように、実際の書き味は「クセがない」「安定している」という言葉がよく似合う。
筆圧をかけなくても文字が整い、スッと使える。“実用の道具としての完成度”が高いモデルである。
おすすめの字幅と用途
F(細字)──手帳・メモに
細かい字が書け、にじみにくい。ビジネス手帳やスケジュール帳との相性がよい。
M(中字)──手紙・ノートに
インクの濃淡が出やすく、文字に表情が生まれる。長文でもストレスなく書ける。
B(太字)──“書く時間を楽しむ”派に
しっとりとしたインクの流れで、書いている感触を楽しめる。
デザインと持ち心地
透明軸から定番ブラックまで、どれも控えめで上品。キャップのリングには「#3776 CENTURY」の刻印が入り、控えめながら存在感がある。
軽すぎず重すぎない。キャップを後ろに挿すと手元の重心が安定し、長時間の筆記でも疲れにくい。
“金ペンらしいトントン感”──紙の上で軽く跳ねるような弾みも心地いい。
買う前に知っておきたいポイント
- キャップはねじ込み式(しっかり回して閉めるタイプ)
- カートリッジ・コンバーター両対応
- インクは「プラチナ純正ブルーブラック」が最も安定
手軽に始めるならカートリッジ、色を楽しむならボトル+コンバーターがよい。
こんな人におすすめ
- 手帳やメモをすっきり書きたい人
- インクの乾きで失敗したくない人
- 最初の一本を長く使いたい人
まとめ|「安心して置ける一本」があるだけで
何日か忙しくて使わなくても、またすぐに書ける。その小さな安心が、毎日の“書く時間”を心地よくしてくれる。
プラチナ #3776 センチュリーは、そんな静かな信頼で選ばれる一本だ。派手さよりも、長く寄り添う相棒を探している人にこそ、おすすめしたい。