吸入式は、万年筆の胴体に“小さなスポイト”を内蔵し、ボトルから直接インクを取り込む方式だ。この記事では、初回準備、インクの浸ける深さと吸入の型、満たし方の目安、うまく吸えない時の対処、拭き上げと簡易洗浄、保管の向きまでを順に解説する。
目次
吸入式万年筆とは? 仕組みと特徴
吸入式(きゅうにゅうしき)とは、カートリッジを使わず、万年筆の本体そのものがインクを吸い上げて貯める構造のこと。内部にピストンや真空構造があり、ボトルインクを直接取り込むため、別の部品を交換する必要がない。
吸入式のメリット
- インク容量が多い(一度で長く書ける)
- 携帯性が高い(カートリッジを持ち歩かなくてもよい)
- インクの色替えが自由(ボトルインクを直接選べる)
デメリット(注意点)
- 手が少し汚れやすい
- インク吸入や洗浄に多少の手間がかかる
- 分解や無理な清掃は故障の原因になる
吸入式は慣れると非常に便利で、筆記具としての完成度も高い。特にペリカンやパイロットなどの中上級モデルで採用されていることが多い。
準備する道具と環境を整える
吸入前の準備はとても大切だ。まず、次の3つを揃えておこう。
| 用意するもの | 用途 |
|---|---|
| ボトルインク | 吸入に使用するインク。メーカー純正が安心。 |
| 柔らかい布/キムワイプ | 首軸やペン先を拭くため。繊維が残らないものが望ましい。 |
| 下敷きシートまたはタオル | 机にインクがつくのを防ぐ。 |
加えて、コップ一杯の水を近くに置いておくと、手直しや洗浄時に便利だ。
室温は20〜25℃ほどが理想。インクが冷えすぎると粘りが強くなり、うまく吸い上げられないことがある。
吸入式万年筆の基本的な使い方(手順)
吸入式にはピストン式・真空式・レバー式などがあるが、基本の流れはほぼ共通している。
① ペン先をインクにしっかり浸ける
インクボトルにペン先を入れ、呼吸穴(ペン先にある小さな空気抜き)が完全に隠れるまで浸ける。浅いと空気だけが入ってしまい、インクを吸い上げられない。
② ピストン(またはレバー)をゆっくり操作する
ピストン式なら、尻軸(本体後端)を回して内部のピストンを押し下げ、再びゆっくり戻す。
真空式の場合は、押し込み→一気に戻す。レバー式なら、側面のレバーを一度だけ起こして戻す。
③ 外側を軽く拭いて、もう一度吸入
1回目で入りきらなかったインクを補うため、外側を軽く拭いてからもう一度吸入する。
(※真空式は1回で十分なことが多い)
④ 首軸やペン先を拭き取る
吸入後、ペン先や首軸に残ったインクを一方向に拭く。往復するとインクがペン芯側へ逆流するおそれがある。
⑤ ペンを立てて30秒ほど置く
キャップを軽く締め、ペン先を下向きにして30秒ほど置くと、ペン芯(インクの通り道)にインクが行き渡り、書き出しが安定する。
方式別に見る吸入のコツと注意点
ピストン式
- コツ:満タン後に尻軸を半回転だけ戻すと、内部の圧が抜けてインク漏れを防げる。
- 注意:無理に回し切らない。内部のパッキン(密閉ゴム)を傷める原因になる。
真空(バキューム)式
- コツ:押し込みはゆっくり、戻しは一気に。中の空気が抜けて吸い上げやすくなる。
- 注意:書くときは尻軸を少し緩める。閉じたままだとインクが流れにくく、かすれの原因になる。
レバー式
- コツ:レバーは端まで一度だけ起こして戻す。中途半端に数回繰り返さない。
- 注意:古いモデルは内部のゴム袋(サック)が劣化していることがある。強い力をかけず、違和感があれば専門店で相談を。
インクをうまく吸えないときの対処法
| トラブル | 主な原因 | 解決策 |
|---|---|---|
| 吸入量が少ない | ペン先の浸け方が浅い | 呼吸穴までしっかり浸ける |
| 空気が入る | 操作が速すぎる | ゆっくりと一定の速度で吸入する |
| 書き出しがかすれる | ペン芯にインクが行き渡っていない | ペン先を下向きにして30秒待つ |
| インクが濃く出る/漏れる | 内部の圧力が高い | ピストンを少し戻して内圧を逃がす |
| インクが詰まる | 顔料インクの使用や乾燥 | 染料インクに変更、または洗浄する |
吸入式万年筆のお手入れと洗浄方法
日常の手入れ(毎回)
- 使用後はペン先や首軸を柔らかい布で拭く。
- キャップを締める前にインクだまりをチェック。
- ペン先を上にして保管する(インク漏れ防止)。
簡易洗浄(1〜2週間使わないとき)
- コップの水を吸って吐くを数回くり返し、内部のインクを薄める。
- 水が透明になったら拭き取り、自然乾燥させる。
- 内部を分解して洗うのは避ける(メーカー保証外)。
長期保管のポイント
- 吸入式は満タンまたは空タンクで保管するのが理想。中途半端だと気圧で漏れやすい。
- 高温多湿を避け、直射日光の当たらない場所に置く。
- 長期間使わない場合は内部を洗って完全に乾かす。
よくある質問(Q&A)
Q1. インクはどのくらい吸える?
→ モデルによるが、一般的な吸入式は1.0〜1.5ml程度。カートリッジの約2〜3倍。
Q2. 飛行機に持っていっても大丈夫?
→ 可能。ただし満タンまたは空の状態で。半端な残量は気圧変化で漏れやすい。
Q3. どんなインクでも使える?
→ 可能だが、最初はメーカー純正の染料インクを推奨。顔料やラメ入りは詰まりの原因になる。
Q4. 書き出しが薄い時は?
→ ペン先を下向きにしてしばらく置くか、軽く紙に数文字書いて馴染ませる。
まとめ|吸入式の基本は「深く・ゆっくり・一往復」
吸入式万年筆を快適に使うコツは、次の3つに集約できる。
- 呼吸穴までしっかり浸ける
- ゆっくり一定の速度で吸入する
- 使い終わったら一方向に拭き、正しく保管する
吸入式は少し手間がかかるぶん、インクとの一体感や書く時間の“儀式感”を味わえる。慣れてくると、インクの色替えや洗浄も楽しくなるだろう。はじめての1本には、扱いやすいピストン式や真空式モデルを選ぶのがおすすめだ。

