いつも通りキャップを外したのに、インクが出ない。そんなとき、まずは焦らず原因を見きわめたい。実は、ほとんどの「書けない」は乾燥やインクの固まりが原因で、無理にこすらず水洗いするだけで直ることが多い。この記事では正しい対処の順番と、やってはいけない手入れ方法をわかりやすく整理した。
目次
まずは5分でできる「クイック解消法」
「万年筆のインク詰まり」は、ほとんどが“軽い乾き”から始まる。書けなくても慌ててこすったり、強く押しつけたりするのはNG。まずは水を使って、やさしく通り道を回復させよう。
必要なのはコップの水(できればぬるま湯、40℃以下)とティッシュ、そしてコンバーターの3つだけ。
- ペン先をぬるま湯でぬらし、ティッシュに軽く触れる →インクの通り道に水がしみ込み、固まりをゆるめる。
- コンバーターで「吸入→排出」を10回ほど繰り返す →内部の細い溝にたまった乾きや紙粉【紙のカス】を押し流す。
- ぬるま湯にペン先だけを1〜2分つける →熱湯は絶対NG。ペン先の接着や樹脂部分が変形する恐れがある。
- 再度インクを吸い上げ、試し書きをする →薄く線が出ればOK。まったく出ない場合は、次の章「本格洗浄」へ。
症状別:インクが出ない原因はどこにある?
「書けない」にはいくつかのパターンがある。ここで原因を見きわめれば、ムダな手間を省ける。
- 書き始めだけかすれる → ペン先の乾き。キャップの気密が弱っている可能性。
- だんだん線が薄くなる → ペン芯【黒いギザギザのパーツ】に紙粉や乾いたインクが詰まっている。
- まったく出ない → 長期の乾燥や、顔料・シマー(ラメ)系インクの固着。
- インクがボタ落ちする → ペン先を下にして保管していた/急な温度変化による膨張。
こうした症状の多くは「通り道のクリーニング」で改善する。
15〜30分でできる「本格洗浄」(安全なやり方)
5分のクイック洗浄で改善しない場合は、やや丁寧な“本洗い”を試す。
道具は家にあるもので十分だ。
用意するもの
コップ2つ、ぬるま湯(40℃以下)、中性洗剤【食器用でOK】、スポイトまたはゴム球洗浄器。
手順
- 洗浄液を作る 水200mlに対して洗剤を1〜2滴。ほんの少しで十分。
- セクション【ペン先のついた首の部分】を外し、洗浄液に10分ほど浸す →胴軸や木軸は絶対に浸けない。
- スポイトで「逆洗い」する →吸い口から水を押し込み、濁った水を吐き出す。これを数回。
- 真水ですすいで乾燥 →ペン先を下にして、キッチンペーパーに立てて自然乾燥。ドライヤーは使用しない。
やってはいけないNG手入れ
直したい気持ちが強いほど、つい力を入れたくなるが、ここを間違えると修理コースまっしぐらだ。
- アルコール・シンナーなどの溶剤は使用しない(樹脂を傷める)。
- 熱湯に浸けない(変形・接着剥がれの原因)。
- ペン先の溝を針や爪楊枝でほじらない(元に戻せない)。
- 超音波洗浄器をむやみに使わない(素材によってはNG)。
- 深い分解は自己責任。メーカー保証が切れる場合もある。
インクの種類で「詰まりやすさ」は変わる
インクの性質を知ると、予防のコツも見えてくる。
- 染料インク(一般的な水性インク) 扱いやすく、詰まりにくい。月1の水通しで十分。
- 顔料インク(耐水性・記録用) 微粒子が残りやすく、乾くと固まる。使用後はすぐ水通し。
- 古典インク(没食子系) 紙上で化学変化し耐水性が出るが、ペン内部がくすみやすい。定期洗浄が必要。
- シマーインク(ラメ入り) 沈殿しやすいため、使用前によく振る。週1回の水通しで快適に使える。
詰まりを防ぐための「小さな習慣」
万年筆を長く気持ちよく使うには、特別なことよりちょっとした習慣が大事だ。
- 週1回、ぬるま湯を吸って吐く“水通し”をする。
- 1週間以上使わないときはカートリッジを抜く。
- 保管はペン先を上か横向きに。下向きはボタ落ちの原因。
- キャップの内側にあるパッキン(小さなゴム)を定期的に点検。
- 紙粉の少ない紙(上質紙・ノート)を選ぶ。
それでも直らないときは専門店へ
- ペン先が左右非対称に見える、または曲がっている。
- 長期放置で水がまったく通らない。
- 無理に力を加えるとインク漏れや割れのリスク。
このような場合は、メーカーまたは専門店に相談するのが安全だ。保証期間内なら、購入店→国内代理店→メーカーの順で依頼すればスムーズ。
よくある質問(FAQ)
Q. 食器用洗剤なら何でも使える?
A. 「中性」と表示されたもののみ使用可能。漂白剤入りは避ける。
Q. カートリッジ式でも洗浄は必要?
A. 必要。カートリッジ口に紙粉や乾いたインクがたまりやすい。
Q. 洗浄の頻度は?
A. 染料インクなら月1回、顔料・シマー系なら週1回が目安。
まとめ
- 万年筆が書けないときは、まずぬるま湯でクイック洗浄。
- 改善しなければ、本格洗浄へ進む。
- 強い溶剤・熱湯・分解はしない。安全第一で。
- 定期的な「水通し」と保管の工夫で、再発を防げる。




