ふと手紙を書きたくなった夜や、ノートを開いて頭の中を整理したい朝。そんなとき、ボールペンではなく万年筆を手に取りたくなることがある。
けれど、いざ選ぼうとすると、ブランドの違いが思いのほかむずかしい。
「国産のほうが扱いやすい?」
「海外ブランドのほうが、味がある?」
どれも良さそうで、どれも少し違う。
このページでは、主要な万年筆ブランドを比較しながら、それぞれの“らしさ”と、どんな人に合うかを整理してみた。
見た目や値段ではなく、「自分の書く時間に合う一本」を見つけてほしい。
目次
まず、ブランドで選ぶ前に知っておきたいこと
「高い万年筆=書きやすい」とは限らない。
大切なのは、“どんな場面で、どんな紙に書くか”という日常の使い方だ。
たとえば毎日ノートに仕事のメモを書くなら、軽くて乾きにくいものがいい。一方で、週末だけじっくり日記を書くなら、インクの濃淡や手触りを味わえる重めの一本が向いている。
ペン先の素材も、選ぶポイントになる。
- スチール(鉄):しっかりとした書き味。価格も手ごろ。
- 14K/18K(金):柔らかく、筆圧が軽い人に向く。長時間でも疲れにくい。
紙との相性も意外と大きい。
- 普及ノート紙:裏抜けしやすい→細字(F/EF)が安心。
- MDペーパー・ロディア:インクがのりやすく、書き味を楽しめる。
店頭で試すときは、“自分がいつも使う紙”を一枚持っていくのがおすすめだ。
主要万年筆ブランドを比較する
ここでは、店頭で相談が多い7つの定番ブランドを、「毎日書く人」と「週末だけ書く人」に分けて紹介する。
◆ 国産ブランドの特徴:安心感と繊細さ
PILOT(パイロット)
どのモデルもインクフローが安定しており、書き出しでカスれることがほとんどない。
日本語の筆記に合わせた設計で、縦線も横線も均一。
毎日のメモや日報など、“仕事の書く”に向いている。
- 向いている人:毎日、ノートにしっかり書く人
- 代表モデル:カスタム74(王道の書き味)/ヘリテイジ92(透明軸でインクが見える)
SAILOR(セーラー)
軽いタッチでも線がよく出る。筆圧が弱い人でも心地よく書ける。
“やわらかい線”が出るのはセーラー特有で、日本語の曲線(ひらがな・カタカナ)がきれいに見える。
- 向いている人:万年筆の「線の表情」を楽しみたい人
- 代表モデル:プロフィット21/プロギアスリム
PLATINUM(プラチナ)
長期間放置しても乾かない“スリップシール機構”を持つブランド。
しばらく書かない日があっても、キャップを開ければすぐに書ける。
「平日は使わないけれど、休日に書きたい」という人にぴったり。
- 向いている人:週末だけ書く、頻繁には万年筆を使わない人
- 代表モデル:#3776 センチュリー
◆ 海外ブランドの特徴:存在感と趣味性
LAMY(ラミー)
軽く、モダンなデザイン。スチールペン先でも滑らか。
道具感が強く、学生やデザイナーにも人気。
ラフなノートにも合う“毎日使えるドイツの万年筆”。
- 向いている人:気軽に万年筆を使いたい人
- 代表モデル:サファリ/アルスター
Pelikan(ペリカン)
吸入式の代表格。ボディに重みがあり、手にしっくりなじむ。
インク色の深みを味わいたい人に人気。
「書く時間」をじっくり楽しむ“週末派”におすすめ。
- 向いている人:落ち着いた時間に、じっくり書きたい人
- 代表モデル:スーベレーン M400/M600
Montblanc(モンブラン)
“筆記具の象徴”と呼ばれるブランド。
柔らかい書き味と品のあるデザインで、贈り物にも選ばれる。
長く付き合う“自分への投資”という一本。
- 向いている人:節目にふさわしい一本を探している人
- 代表モデル:マイスターシュテュック 145/149
Parker(パーカー)
控えめなデザインでビジネスにも馴染む。
滑らかなスチールペン先とバランスの良い重量感。
「実用」と「品」を両立させたい人にちょうどいい。
- 向いている人:ビジネスとプライベート、どちらにも使いたい人
- 代表モデル:ソネット/デュオフォールド
ブランド比較表|国産と海外の違いをひと目で
ブランド | 国/地域 | 特徴 | 向いている人 |
---|---|---|---|
パイロット | 日本 | 安定感・普段使い | 毎日書く人 |
セーラー | 日本 | 柔らかい線・筆圧が軽い | 手書きの表情を楽しむ人 |
プラチナ | 日本 | キャップの密閉性が高い | 週末だけ使う人 |
ラミー | ドイツ | 軽くデザイン性あり | 万年筆初心者・カジュアル派 |
ペリカン | ドイツ | 吸入式・深い書き味 | 趣味として楽しむ人 |
モンブラン | ドイツ | 高級感・象徴的存在 | 一生ものを探す人 |
パーカー | 英国 | 上品・ビジネスにも◎ | 実用派・贈り物用途 |
迷ったときの選び方のコツ
万年筆選びでよくある失敗は、「見た目や価格だけで決めてしまう」こと。
長く使うためには、“書く紙”と“頻度”を想像してみるといい。
- 仕事メモ中心なら → パイロット/ラミー
- 休日の手紙や日記なら → ペリカン/セーラー
- 贈り物・節目の一本なら → モンブラン/パーカー
ペン先は、最初は細字(F)が無難。
慣れてきたら中字(M)でインクの濃淡を楽しむのもいい。
おすすめ3選|“自分の時間”に寄り添う一本
- PILOT カスタム74:毎日のノート使いに。軽くて疲れにくい。
- LAMY サファリ:道具感と遊び心を両立。気軽に使える一本。
- Pelikan M400:落ち着いた時間にじっくり書く。吸入式の魅力を体感できる。
おわりに|“書く”を続ける道具として
いい万年筆は、派手さよりも“静かに支えてくれる”道具だ。
インクを替えるたびに表情が変わり、少しずつ“自分の道具”になっていく。
忙しい毎日の中でも、ほんの数行書くだけで気持ちが整う。そんな時間をともに過ごせる一本が、きっと見つかるはずだ。