14金と18金。数字が大きいほうが“良い”と思われがちだが、万年筆の世界はもう少し奥が深い。
しなり、コシ、そして紙をなでたときの抵抗感——それぞれが、手の力のかけ方や、好きな字幅に不思議と影響する。
ここでは、少しむずかしい金属の話をやわらかくほどきながら、今日の一本を気持ちよく選ぶための“地図”をつくっていこう。
目次
14金と18金、どちらが「上」ではなく「合うか」で選ぶ
14金のペン先は、紙に当てた瞬間に“芯”のある手ごたえがある。線がピシッと揃い、速記でも筆圧に負けない安定感。一方の18金は、筆圧をやわらかく受け止め、少したわんでから線を生む。その“しなり”が、文字にすこし表情を添えるのだ。
もし筆圧が強めなら14金が合いやすい。軽いタッチで書く人、紙の上を滑らせたい人には18金の追随性が気持ちよく響く。数字より先に、自分の書き癖を思い出してみてほしい。
「14K」と「18K」は、金の含有量のちがい
数字は単純だ。14Kは約58.5%が金、18Kは約75%。残りは銀や銅などで、これが“性格”をつくる。金が多い18Kはサビにくく、変色にも強い。ただし、硬さは配合と厚みによって逆転することもある。
つまり、「18Kだからやわらかい」とは言い切れない。同じ18Kでもブランドやモデルによって、驚くほど書き味が変わる。数字は素材の目安であって、書き味の保証ではない。それを知っておくだけで、選ぶ目がぐっと変わる。
書き味を決めるのは“金属”だけじゃない
万年筆の書き味を左右するのは、金属そのものよりもあなたの手の使い方だ。
筆圧が強めなら、14金の“コシ”が線の暴れを抑えてくれる。強く押しても線が太りにくく、速記でもブレない。
反対に、軽い筆圧で書く人には18金の“しなり”が心地よい。紙の上をすべるたびに、ほんの少しのたわみが文字に息を吹きこむ。
紙との相性も大切だ。コピー紙や手帳の紙のようにザラつく紙には、14金の安定感が合う。一方で、上質紙や便箋のようにすべすべした紙では、18金の追随性が美しく線をのばす。
インクでも書き味は変わる。14金には「しっとり系」インクを合わせると硬さがやさしくなる。18金には「さらさら系」インクで線のキレが増す。少しの工夫で、まったく別の筆に変わる。
14金と18金の性格をざっくりまとめると
| 観点 | 14金 | 18金 |
|---|---|---|
| コシ | 強い | やわらかい |
| しなり | 控えめ | 豊か |
| 線の安定感 | 高い | 中〜高 |
| 速記・ビジネス | 向く | 普通〜向く |
| 筆圧弱め | 普通 | 向く |
| 上質紙での表情 | 普通 | 豊か |
| 耐食性 | 良好 | やや上 |
| 傾向価格帯 | 中 | 中〜上 |
ブランドごとの傾向メモ
国産ブランドでは、14金がベーシックな位置づけ。“日常使いに安定した一本”を求める人に向いている。
18金は中〜上位ラインに多く、デザインの自由度やしなりの表現力を楽しめる。書くことを“時間の趣味”にしたい人はこちらが合うだろう。
海外ブランドは18金主体のモデルが多く、軽い筆圧の人に合わせやすい個体が見つかる。ただし「柔らかすぎる」と感じるものもあるので、試筆は必須だ。
用途別のおすすめ組み合わせ
ビジネスノート・速記派
14金 × F〜M字幅 × 速乾インク。コピー紙でもにじみにくく、長文でも疲れにくい。
手紙・日記派
18金 × F〜M字幅 × しっとりインク。筆圧をあずけると、止めやはらいに自然な表情が出る。
手帳・細字派
14金、もしくは“コシのある18金” × EF〜F字幅 × なめらか紙。細字でも引っかからず、静かな書き味になる。
試筆のときに見るポイント
- 軽く横線を引いて、ひっかからないか。
- 縦線をゆっくり引いて、太さが安定しているか。
- 止めやはらいでインクがにじまないか。
これだけで「自分の手」と「ペン先」の相性が見えてくる。迷ったら、販売店で相談してもらうのが一番だ。分解や研磨は禁物。違和感は調整で直る。
毎日のメンテで差がつく
使ったあとはキャップをしっかり閉める。1〜2週間に一度は、ぬるま水で軽く洗う。それだけで、ペン先は長くきれいに保てる。
先端の小さな粒——ペンポイントは、紙との摩擦を受け止める大事な部分だ。筆圧が強い人は、ザラつく紙を避けるだけで寿命がぐっとのびる。
よくある質問
Q. 18金は必ず柔らかい?
→ いいえ。配合や厚み、設計で硬めの18金も多い。数字は素材の割合にすぎない。
Q. 14金は書き味が劣る?
→ そんなことはない。線の安定や速記には14金が向く。コピー紙を多く使う人には理想的だ。
Q. 初めての一本、どちらを選ぶ?
→ 筆圧が強めなら14金。軽めなら18金。迷ったら、同じモデルで両方を試筆してみるのがいちばん確実。
まとめ
- 14金は、コシの強さと線の安定が魅力。
- 18金は、しなりと書き味の表情が魅力。
- 数字よりも先に見るべきは、筆圧・紙・字幅の3点。
どちらを選んでも、手の力と気分に合えば“正解”だ。万年筆は「書く道具」ではなく、「書く時間を楽しむための道具」。その時間が少しでも気持ちよくなるように一本を選んでほしい。

