忙しい一日が終わり、静かな書斎で手帳を開く。
そんなとき、手元にすっと馴染む一本があれば、思考はもう少し深く、そして自由になる――そう感じるはずだ。
国産万年筆の最高峰として、いつも名が挙がる二つのモデルがある。
パイロットの「カスタム823」と、プラチナの「#3776 センチュリー」。
どちらも名品だと知っているからこそ、最後の二択で迷う人は多い。
良さを知るほど、決め手が見えにくくなるのだ。
ここでは、この二本を徹底的に比較し、あなたにぴったりの一本を見つける手がかりを差し出す。
目次
〈結論から〉あなたへのおすすめは、こちらです
- インクとじっくり向き合いたい、重厚な書き味が好きなら → パイロット「カスタム823」
- インク交換を手軽に、カリッとした書き応えを求めるなら → プラチナ「#3776 センチュリー」
ひと目でわかる。カスタム823と#3776 センチュリーの比較表
| 項目 | パイロット カスタム823 | プラチナ #3776 センチュリー |
|---|---|---|
| ペン先 | 14金(大型) | 14金(大型) |
| インク方式 | プランジャー式(大容量) | カートリッジ/コンバーター両用式 |
| 書き味の傾向 | ぬらりとした滑らかさ | カリリとした確かな手応え |
| 重さ/バランス | やや重め・安定感あり | 標準的・軽快 |
| インク乾燥への強さ | 標準 | 非常に強い(スリップシール機構) |
| 価格帯 | 3万円台〜 | 1万円台〜 |
| こんな人におすすめ | ・書斎でじっくり書きたい ・一つのインクを長く楽しみたい ・ギミック好き | ・いろんなインクを試したい ・たまにしか使わない ・軽快な書き心地 |
〈それぞれの個性〉この万年筆が、長く愛される理由
◆ パイロット カスタム823
インクを吸い上げるひとときさえ、特別な儀式のように感じられる一本。
堂々とした軸に、透明ボディから透けるインクの色――その美しさが所有する喜びを静かに満たしてくれる。
特筆すべきは、プランジャー式吸入機構。尻軸を引いて押すだけで、一度に約1.5mlものインクを吸い上げられる仕組みだ。一般的なコンバーターの倍以上の容量が入り、頻繁にインクを補充する必要がない。
長時間の筆記にも安心して使える実用性を備えている。
吸入時の「シュポッ」という手応えと、ボディにインクが満ちていく光景――それは他の万年筆では得がたい満足感だ。
書き味は「ぬらり」と滑らかで、筆圧をかけずともペンの重みで自然に文字が流れる。一度に多くの文字を書く人にこそ、ふさわしい一本である。
◆ プラチナ #3776 センチュリー
最大の強みは、プラチナ独自のスリップシール機構だ。
キャップ内部にスプリング入りの気密構造を備え、ペン先をしっかりと密閉する仕組みになっている。
空気の流入を極限まで抑えることでインクの蒸発を防ぎ、メーカーの実験では「キャップを閉じたまま2年放置しても、かすれずに書ける」とされている。
書き味は「カリリ」とした繊細な筆記感。
一文字ずつ丁寧に書きたい人に向いており、週末だけ万年筆を使うような人にも安心して寄り添ってくれる相棒だ。
〈じっくり比較〉迷いがちな5つのポイント
Point 1. 書き味
- カスタム823 → 滑るような「ぬらり感」
- #3776 → 紙を感じる「カリリ感」
Point 2. インクの楽しみ方
- 823(プランジャー式) → 大容量。インク交換は少なくて済むが、洗浄はやや手間。
- 3776(両用式) → カートリッジで手軽。コンバーターで色替えも自由。
Point 3. ペン先と字幅
- 823 → わずかに大きめのペン先、堂々とした印象。
- 3776 → 豊富な字幅(UEFまで)。細字好きに強い。
Point 4. デザインと持ち心地
- 823 → 重めで安定感。透明軸が人気。
- 3776 → 標準サイズで軽快。限定色が多く、集めたくなる魅力も。
Point 5. メンテナンス性
- 823 → 洗浄は慣れが必要だが、インクが透き通っていく様子が楽しい。
- 3776 → 洗浄が簡単。インク交換2〜3回ごとに軽いメンテで十分。
〈まとめ〉結局どちらを選ぶ?
◆ カスタム823がおすすめな人
- 書斎でゆっくり日記や手紙を書く
- 一つのインクを長く楽しみたい
- 所有欲を満たすギミックが好き
◆ #3776 センチュリーがおすすめな人
- たまにしか使わないけれど、すぐ書きたい
- いろんな色のインクを気軽に試したい
- カリッとした確かな書き応えが好き


